999C06:サージカルマスク

C仕事の一歩

2021年にマスクのJIS T 9001が発出されました。マスクは一般向け(家庭用)と医療用(医科向け用)と分かれておりますが、ここでは医療用のサージカルマスクについてご説明いたします。マスクのJIS化に伴って、医療用またはサージカルマスクと記載できるのは、JIS認証を受けたものに限ることとなりました。なお、N95タイプのマスクもサージカルマスクではありますが、ここでは、N95型マスクについては、記載しておりません。

マスクのタイプ

サージカルマスクは、プリーツ型とオメガ型があります。この2種類があるということを理解しないでいると、次の表と裏の判別が付かなくなってしまいます。

まず、プリーツ型

プリーツ型を模式図

プリーツ型は、同じ方向に折りたたまれております。これは世界的なサージカルマスクの代表です。

次にオメガ(Ω)型

Ω型の模式図

たぶん、一般用のマスクメーカーがサージカルマスクという形で販売したと思われます。口に当たる部分が外に出る折り方なので、口にマスクが当たりにくい設計にしてあります。

マスクの表と裏

プリーツ型とオメガ型の2種類があることが分かったうえで、まずは、自分が今したいと手に持っているマスクはどちらなのかを確認します。

ゴムの取り付け位置や、マスク上部の折りたたみ方で、表裏を判断してはいけません。

オメガ型であれば、広げた時に中に空間ができるほうが、内側となります。オメガ型は、これでOK。

プリーツ型は、仮面ライダーシリーズの口元だと思うと分かりやすいと思います。わたしが先輩から習ったのは、プリーツを上向きにしていたら、埃がそこに溜まってしまう。と教えられました。つまり、上部に模式図を書きましたが、プリーツ型は、上から下に、なにか落ちてきても、そのまま落ちるように装着するのが正解ということです。

マスクメーカーは、上記内容でマスクを設計しております。

マスクの構造

マスクの素材は、今のところ化学繊維でできております。今後SDGsの流れで、リサイクル可能な素材や化学繊維を使用しない製品も出てくるとは思いますが、まだ、少し時間がかかるものと思われます。

基本的なマスクの構造は、最外層の不織布、内部にフィルター、内元不織布という形です。フィルターを複数枚入れてフィルター性能をあげているマスクもありますが、今回のJISでは、息苦しくないような設計要素が入ったため、フィルターを複数枚入れたマスクは少なくなると思われます。

マスクの断面図

一般的に、最外層と口元不織布は、ポリプロピレンのスパンボンドで、フィルターは、SMSと呼ばれております、スパンボンド/メルトブローン/スパンボンドです。素材はどれもポリプロピレンが多いと思います。スパンボンドとかメルトブローンとは、製法による違いです。製法の違いで、原材料は同じでも機能が変わります。

サージカルマスクの品質基準

サージカルマスクは、クラスがⅠ、Ⅱ、Ⅲの3つのクラスに分かれております。アメリカのASTMでは、レベルでありましたが、日本ではクラス分類としました。

日本では、JIS認証を受けることができる試験期間が定まっており、今のところ一般社団法人カケンテストセンターのみが試験期間です。

PFE:Particle Filtration Efficiency (微小粒子捕集効率) クラスⅠ ≧95%、クラスⅡ ≧98%、 クラスⅢ ≧98%

粒径0.1㎛のポリスチレンラテックス粒子をマスクを挟んで上下の空間を作り、上部に粒子をエアーで浮遊させて、マスクを通過した微粒子の数とマスクを通過しない微粒子の数から比率を算出し%表示したものです。粒径0.1㎛がJISでは採用されておりますが、マスクでは粒径0.3㎛の物のほうが、通過しやすいことが一般的に知られております。サージカルマスクではありませんが、PM2.5を標榜するときには、JISのPFE試験で良いのかどうかを検討する必要があると思います。

BFE:Bacterial Filtration Efficiency (バクテリア飛まつ捕集効率) クラスⅠ ≧95%、クラスⅡ ≧98%、 クラスⅢ ≧98%

黄色ブドウ球菌を使用してフィルター性能を調べる試験です。細菌の懸濁液を粒子径3.0μm程度のエアゾオル化して噴霧を行い、マスクによってどれほど遮断されたかを細菌培養してコロニーをカウントし、ブランク試験に対して%表示で示した試験です。飛沫をどれほど通さないものかを示します。

VFE:Viral Filtration Efficiency(ウイルス飛まつ捕集効率) クラスⅠ ≧95%、クラスⅡ ≧98%、 クラスⅢ ≧98%

ウイルスを使用してフィルター性能を調べる試験です。ウイルスは細菌に比べてとても小さいので、ウイルスがどれほど遮断されたかを%表示で示した試験です。カケン独自の試験方法で、ウイルスを大腸菌に感染させてその大腸菌がウイルスによって形を保てない(溶菌)数をブランクと比較して遮断率を%表示したものです。

可燃性:区分1であること。

医療用として使用することで、燃えやすいことは医療従事者にとって、とても危険であります。燃えにくいことがサージカルマスクでは要求されており、着火してからどれほどで燃えてしまうかという時間の基準をクリアすることが要求されております。具体的には、3.5秒以上かかるもの。と表面が起毛されているものは、7秒以上とありますが、サージカルマスクでは起毛したものは見かけないので、3.5秒以上と考えて良いと思います。

人工血液バリア性:クラスⅠ 10.6kPa、クラスⅡ 16.0kPa、 クラスⅢ 21.3kPa

人工血液をマスクの外層部分へ30cm離したところから噴射して、マスクを通過したかどうかを確認するテストです。噴射する人工血液の圧力がクラスによって異なっており、クラスが上がるにつれて、より強い噴射でもマスクを通さないことが要求されております。32検体をテストして29検体以上の血液非透過が要求されます。

圧力損失:全クラス <60Pa/cm2

マスクを通過する空気抵抗が大きいと息苦しくなってしまうため、空気抵抗の基準を設けております。ASTMの圧力損出では、レベルによって、基準がそれぞれ違ったのですが、日本のJISでは、クラスに違いを出しておりません。ASTMと単位も異なっており、分かりにくい状況です。日本の基準<60Pa/cm2 は約6.1mmH2O/㎝2 なので、ASTMのレベル2程度となっております。フィルター性能が上がれば息苦しくなっても理屈が通るというアメリカの考え方と、息苦しさにクラスの違いは必要ないとの日本の考え方の違いかもしれません。

旧版ASTMのレベル1マスクについて

旧版のASTMにおいて、レベル1の圧力損出は<4mmH2O/㎝2 の規格でした。とても通気度が良いものがレベル1には要求されておりました。この要求事項が実は凄く難しい要求事項で、設計的に圧力損出を<4mmH2O/㎝2 にしても実機で製造を行うと、その基準がなかなかクリアするのが難しい状況でした。もちろんフィルターを薄くしたりするのは、マスクの本性能に関わることなのでできないし、外層と口元不織布の目付を少なくすると、血液バリアー性能が基準を満たさなくなる。製造工程では厳しい製造方法への基準を設定してなんとか、レベル1に対応するマスクの製造を行っておりました。今回、ASTMが改訂され、さらにJISがより緩くなったことで、気を付けて製造しなくても基準を通ることになったことは、製造側からすると良かったと思いますが、息苦しさについて、ASTMより日本の方が緩くて良いのかとも思えるものでした。

ホルムアルデヒド:全クラス ≦75μg/g

ホルムアルデヒドは、毒性が強い物質で製品に残留していると人体に対して悪影響があります。そのためホルムアルデヒドの基準を設定する必要がありました。特に昔の不織布の製造方法においては、ホルムアルデヒドが残留していたものがあったかもしれませんが、昨今の不織布ではホルムアルデヒドを使用した製造方法はあまり聞いたことがないので、まずは検出されないのが普通だと思っております。動物の標本をホルマリン漬けにしておくことは、聞いたことがあるかもしれませんが、ホルマリンはホルムアルデヒド水溶液という意味です。ホルムアルデヒドの毒性が強いため動物が腐らずに標本として長持ちするというわけです。

特定アゾ色素:全クラス ≦30μg/g

着色のマスクのみの要求事項です。特定芳香族アミン24種がそれぞれ≦30μg/gであることが要求されております。特定芳香族アミンは発がん性物質の恐れがあるとされております。

蛍光:本体部に著しい蛍光を認めない。

蛍光増白剤を使用すると、とても白く見えるために、見た目の品質を実際より良く見せてしまわないために、本試験が設定されたと思われます。

JIS取得について

上記、サージカルマスクの品質基準と表示広告自主基準を満たしたものを、一般社団法人日本衛生材料工業連合会(日衛連:JHPIA)の窓口に申請して合格できれば、認定番号を付与されて、JISマークが取得できます。

マスクにJISが制定されたことで、医療従事者にとって悪い製品を使わされない環境ができて良かったと思います。

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